「愛情と信頼ゆえに」

A. プレスリーのゴスペル「主のやかたには」

 「今週かもしれないので、病室にお見舞いにいらしてください」と、96才で入院されたIさんの夫人から順牧師先生に依頼されました。その日の夕方、病室を訪れ、順先生はヨハネ14:2「わたしの父の家には住む所がたくさんある」を迷わず読まれました。その日の礼拝で皆さんにご紹介したプレスリーのゴスペル「主のやかたには」(In My Father’s House)が、この御言葉をテーマにしていたからです。イエス様が必要な御言葉を平安のうちに読めるように導かれたのでした。イエス様はいつも私たちを愛情と信頼を以って導いてくださいます。
 使徒たちも愛と信頼を以って、互いに接しました。

B.聖書より

(37)バルナバは、マルコと呼ばれるヨハネも連れて行きたいと思った。(38)しかしパウロは、前にパンフィリア州で自分たちから離れ、宣教に一緒に行かなかったような者は、連れて行くべきでないと考えた。使徒言行録15章37〜38節
 バルナバは、いとこマルコが以前、突然伝道旅行から外れてしまいましたが、出かける機会をもう一度与えようとしました。ところがパウロは、マルコを同行させたいとは思いませんでした。パウロは、マルコに対して厳しい態度をとり、パウロとバルナバは、別れて行動することとなります。 福音や信仰のことが、本当に分かるようになるためには、厳しい愛の態度も必要なのです。厳しい愛の態度とは、攻撃的に注意し、相手を傷つけることではなく、イエス様の十字架の犠牲があって、初めて私たちは神の子としていただけることを伝え、その教えに従って行動することです。実際、パウロのとった態度によって、マルコは、後に立派な福音の使徒となり、マルコによる福音書を記すようになりました。また、パウロは、後にマルコと共に伝道をしています。

C. 金メダリスト、エリック・リデルとの出会い

 スコットランド人の陸上選手エリック・リデルは、1924年のパリ・オリンピックの数か月前、自分が出場する100m走が日曜日に行われることを知り、自分の信仰に反して、日曜日の礼拝を欠席することはできないと決意します。そして、日曜日ではない400m走に出場して、見事、金メダルを獲得、世界新記録を樹立しました。その後、リデルは両親と同じ宣教師として中国に渡りましたが、日本軍が中国大陸に進出すると、妻と娘をカナダに避難させ、一人中国に残りました。
 やがて、日本軍が真珠湾を攻撃すると、リデル宣教師たち「敵国人」は収容所に入れられます。そこで、日本兵によるひどい中国人への仕打ちを見せつけられていました。収容所内で聖書を教えていたリデルは、「山上の説教」から、「敵を愛しなさい」と教えていました。イギリス人宣教師の子で、当時、高校生だったスティーブン・メティカフさんは、日本兵を愛せるはずがないと思いましたが、リデルはほほえみながら言いました。「そのあとに、イエス様は、『迫害する者のために祈りなさい』と言われたんだ。君たちも日本人のために祈ってごらん。人を憎むとき、君たちは自分中心の人間になる。・・・祈りは君たちの姿勢を変えるんだ」と。リデル自身、毎朝15分早く起きて日本と日本人のために祈っていたのです。
 リデルをクリスチャンとして、またスポーツマンとして尊敬していたメティカフは、思い切って、日本と日本兵のために祈り始めました。すると、以前は、日本兵個人に憎しみを向けていたのですが、祈るようになってからは「これが戦争だ。今の彼らは死に慣れっこになっていて、いのちの価値がわからなくなっている。それに、人間が神に造られた大切な存在であることも知らないであんなことをしている」と思うようになります。そして、日本兵をも愛しておられる神さまを悲しませていることに気付いていない彼らを、憎む代わりに、日本兵たちが一日も早くそのことを悟り、神さまのもとに立ち返ってくれればいいと願うようになりました。メティカフは戦後、宣教師となり、38年間、日本で神さまの愛を宣教したのです。
 リデル宣教師は、妻とわが子と引き離されている深い悲しみを胸に秘めながら、被害者意識のかけらもなく、戦争が終わる数週間前に、脳腫瘍のため、43歳で収容所内で天に召されました。その最期の言葉は、「surrender―明け渡す、身を任せる」でした。リデルの人生は、彼が天に召されてから40年近くたってから映画「炎のランナー」になり、多くの人に感動を与え続けています。

D.結び

 キリストの十字架の贖いにより、神の子とされるという信仰へと人を導くには、厳しい愛の態度も必要です。それは、攻撃的に忠告し、相手を傷つけることではなく、聖書の真理を妥協せず主張し、自らその教えに従うことです。神さまの愛で兄弟姉妹に接する人となりましょう。
御翼2010年6月号その4より


  
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